2001年7月号

原本執筆:ジョン・ロマノ
翻訳編集:スポーツ&フィットネス
        ・マガジン

自分からすすんで大胸筋を断裂しようとする人は先ずいないだろうが、それにしてもこの手の怪我は多過ぎる。 得に大胸筋に限っ
て言うなら。
ベンチプレスという言葉は、一般人ですら知る人が多い程有名なエクササイズの1つです。 なぜならそれを基準にその人の力量を測りたがるからです。 「あなた何キロベンチプレス挙がる? 」なんて質問はジムで良く尋ねられますが、決して人は「あなた何キロデッドリフト挙がる?」とは聞いてこない。 実際扱うウエイトはベンチプレスより大きいのだからデッドリフトやスクワットを尋ねればいいものだが、どういう訳か人は上半身の力を競うベンチプレスを尋ねるのである。

筋断裂・・・Tearと英語では呼ばれますが、胸の筋肉は上腕骨の肩に近い部分から始まり、そこから扇状に胸骨に向かって広がり
ます。 通常筋断裂が起こるとすれば、上腕骨の付け根の腱(けん)が切れるのです。 胸骨に付いている部分が切れる事など滅多にありません。 私自身胸の筋肉を断裂した事はないですが、上腕二頭筋なら断裂した事があります。 だから大体その痛みというものがどういうものなのかは予想がつきます。 又、私の知り合いでも大胸筋を断裂した人がいますが、やはり彼等の話を聞くと、私が思っているのとほぼ間違いないようです。

断裂の痛みとは、回復後も後を引くものです。 それは肉体的と言うより精神的なダメージが大きく、たとえ理想的に断裂をした72時間以内に手術で繋いだとしても、又、医者からも「もう大丈夫」と太鼓判を押されても、前と同じ様にベンチプレスをする事はできないでしょう。 それは心理的な恐怖心なのです。 それ故怪我をする前と同じ重さでバーベルを挙げる事は先ず不可能になるのです。  
この様な目に遭わない為にも、次ぎに3つ悪い例を紹介したいと思います。 尚、文章はすこしエンターテイメント性を増す為に誇張している部分があるのでご了承願います。 

<エゴが招いた断裂>

今でこそ世界中にフランチャイズを持つ、フィットネス界のシャネルやルイビトンと称される程の、知名度とブランドを誇る世界一有名なジムであるワールドジムは、アーノルドシュワツェネガー(現在は本店の経営者に就任しいています)を世界に出した事でも有名です。  しかしこのジムもカリフォルニア州サンタモニカ市にオープンした頃はこんなのではなく、極どこにでもある様なありきたりのジムだったのです。
話は今からほんの少し前で、80年代の事です。 当時そのジムはケチな事で有名で、冬場でもオーナーは絶対ヒーターを入れて
くれなかったのです。  確かにカリフォルニアは年間を通じて温かい気候ではありますが、例えそんなカリフォルニアでも、冬の2月の朝5時頃となると、バーベルやダンベルが冷たくて冷たくてとても握る事すらできません。 しかしそこは”ミスターエゴ”と呼ばれるギャリーとチャールズ。  そんな事は気にも止めていません。 彼等は、お互い常にどちらが力勝負で勝つのかという事しか気にしていないのです。 

そんなある日、ギャリーはリチャードからベンチプレスの勝負を誘われたのです。 あいにくその日の朝5時は曇り空で、街は霧に覆われ寒い朝でした。 もう骨身にしみるとはこの事です。 その上ギャリーは数日前胸のトレーニングをしており、未だ胸の筋肉は疲労から快復していなかったのです。 しかしそこはギャリー。 ベンチプレスは得意と自称するだけに、断る訳にはいきません。 もちろん、2つ返事でOKとなった訳です。

早速勝負はリチャードのウォーミングアップから始まります。  一方ギャリーはというと、自分を”ベンチの王様”と自負するだけに、相方が自分の扱うウエイトに達するまで悠々(ゆうゆう)と側で様子を見ているだけで、ウォームアップをする気配が一向にありません。  そしてやっとチャールズが125kgを10回挙げ終わった時です。  ギャリーが遂に立ち上がったのです! そして勢い良くスウェットシャツを脱ぎ捨て、さっそうとベンチに寝、バーの下に入ったのです。  もうまったく準備運動もウォームアップもしていません。 さすがにこの演出には周りでトレーニングをしていた人達の興味をそそり、人はギャリーを囲む様に集まってきたのです。 
 なんとなく嫌な予感がしだチャールズ。 そこで一言ギャリーに言おうかとしたその時、ギャリーはバーベルをラックからはずし、バーを降ろし始めたのです。

皆が追い討ちをかける中、1回目は何とか挙がりました。 しかし2回目バーを降ろした時、いつもよりややスピードが速く彼の胸に降りたのです。 そしていつになくバーを挙げるのをためらっている中、何か彼のTシャツの下で動いたのです。 と、その時です。
 「ギャアァァァーっ!!!」

ジム内をギャリーの悲鳴がこだまします。 そのつんざく様な悲鳴は、周りにいた人の耳の鼓膜をブチ破らんが勢いです。 
その悲鳴は、次ぎの瞬間バーベルが再びギャリーの胸の上に落ちた時に止まります。
困ったのは補助をしていたチャールズ。 125kを元のラックに戻す為に、上から持ち上げねばなりません。 彼は実質125kgのベント・オーバー・ローイングをしなくてはならなかったのです。
もちろんギャリーは、力自慢を中止。 翌日彼の胸は、誰かにバットで殴られたかの様に青いアザが生々しく残っており。 大胸筋を修復する手術を数日後予定していたのでした。  一方チャールズは、未だ聞いた事の無い低重量でベンチプレスの勝利を収めたのです。

=予防策=
この失敗の教訓として言える事は、先ずギャリーはこの勝負の数日前に激しい胸のトレーニングをしていた為、筋肉が疲労から未だ回復していなかったのです。 そんな状態で筋肉に負荷をかけると、弱ってる部分が損傷するのです。 またどんなおバカさんでも、ウォーミングアップがウエイトを挙げる前は必ず必要なのは知っています。 特に重い重量を挙げる時は。 言うまでもなく、あの様な低い気温の中上着を脱ぐ奴はマ・ヌ・ケ。

<デイブの失敗>

デイブは、ボディビルダ−としてコンテストに参加してきましたが、どうもその薄い大胸筋が原因で上位入賞できなかった事に気付きます。  そしてその問題は、インクラインベンチプレスをする事で解消すると判明します。 そこで今までの失われた時間を埋め 尽すべく、明けても暮れてもインクラインベンチプレスをやみくもに続けたのです。 当初彼の希望通り胸の厚みが増し、かなり良い線を達成しつつあったのです。
そんなある日、デイブはジムでトイレに入った時、壁に貼ってあったあるボディビルダーの記事を目にします。 その記事では、分厚い胸を持つボディビルダーがワイドグリップのベンチプレスを好んでする事が紹介されていたのです。 そうとなればいても立ってもいられないデイブ。 大胸筋を分厚くする為なら何でもする信念のもと、心に決めます。 早速トイレからトレーニングルームに戻り、胸のトレーニングを開始します。 トレーニングの半ば、スミスマシーンにてインクラインベンチプレスをしていて、扱う重量も最高値に達するかという時です。 ふと先程トイレの中で見た記事をデイブは思い出します。 その時バーベルの重量は120kgを超えています。 普段ナローグリップしかした事のないデイブが、いきなりワイドグリップに切り替えたのです。  そのグリップの広さは、以前と比べると、ほぼ倍の広さ。 トレーニングパートナーは、デイブのいきなりの行為に首を傾げ、「そんなのでやる気? 大丈夫か? 重過ぎはしないか?」と尋ねます。 「重い? こんなのチョロイぜ!」と、鼻で笑うデイブ。 デイブは一度決めたら止めても無駄な事を知っているトレーニングパートナー。 仕方なくバーをラックから外す補助をし、見守る事にしました。

デイブは意気揚揚とバーを差し上げ、降ろしにかかります。 と、その時です。 デイブの予想に大きく反し、バーは3分の1の行程を 過ぎた辺りからスピードがどんどん上がります。 何とかバーを止め様と、必死に全力で抵抗するデイブ。 そして何とか胸の数センチ上で止めます。  そのまま手首を捻ってバーをラックに引っ掛けようとしますが、意に反しバーベルは更に降りて行き、遂には胸の上にどっかりとのしかかります。  デイブはこのままでは死んでしまうと思い、早くトレーニングパートナーヘルプしてくれないかと望んでいるのですが、あいにくあまりの激痛の為アゴを動かす事も出来ません。  やがてその事態の異常にやっと気が付いたパートナー。  バーを持ち上げラックに引っ掛けます。 その途端デイブは這うが如くベンチから逃げ、自分の胸を触ります。 と、そこには大きなコブが右の大胸筋に出来ているのです。 完全に断裂です。 その余りの激痛に、デイブはその場でもがき始めます。 仕方なくメンバーは、デイブを救急車に放り込み病院に直行させる始末。

 =予防策=
先ずデイブの過ちは、普段やった事のない動きを重い重量で試した事。 ナローグリップで慣れているのなら、ワイドグリップは異常に大胸筋をストレッチするのです。 その為許容範囲を超えた領域でウエイトを扱う事となるのです。 先ず新しい動きを試すなら、軽いウエイトからする事。 分かり切った事なのですが・・・。

<おバカ3人組み(極め付け編)>

世には色んなトレーニング法がプロボディビルダーやパワーリフターにより考案され交されますが、このアンディ、エリック、ジョーの3人もご多分に漏れず、その様な最先端の情報には直ぐ飛び付くタイプです。 そこで今回この3人組みを魅了したトレーニング法とは、ある有名ボディビルダーが考案したものです。 その方法とは、自己が扱える最大重量より更に重いウエイトを扱い、バーを挙げるのではなく下降時に重点を置いてトレーニングするというものです。 これは実験により立証されており、筋力は収縮時より伸張時により強い力を発揮するのです。 ですから「伸張時の力を伸ばす事により、収縮時の
筋力もつられて伸びる」という理論なのです。

で、この3人組みは、ベンチプレスでその方法を試したのです。
先ずストップバーがベンチの両サイドに置かれ、2人が両サイドで待機します。 そしてベンチプレスが最も強いジョーがこの新しい方法に最初に挑戦する事になりました。  普段ジョーは125kgが最高重量ですが、その日はウエイトを150kgにしたのです。  両サイドの2人は、バーベルを先ず挙げます。 するとジョーは、腕を伸ばし切った形で構える事となります。 準備が整ったところで、両サイドの2人がバーを離します。  

  ストーン!

バーベルはな〜んの抵抗も無く、ジョーの胸に向かって落ちます。 幸いストップバーがバーベルをジョーの胸の上数センチで止めてくれますが、それを見ていて笑いをこらえ切れないアンディとエリック。 ゲラゲラひとかた笑った挙句、「ジョー、次ぎはちゃんと力入れてくれよな!」と言ってバーをもう一度挙げます。 そして再びバーを離すと、ストーンと落ちる始末。 その情けない程の余りの無力な姿に、涙を流しながら笑い転げるアンディとエリック。 「もう一度行くぞ!」と2人がバーを挙げます。

今度こそはとジョーはムキになって背を弓反りに、オリンピック式スタイルをとります。 そしてバーが再び離されます。
と、今回は前の2回よりやや遅く下降したのですが、それでも勢い良くバーベルは落ちました。 ドーン! 「さあ、もう一丁」と、アンディとエリックはバーを挙げます。 そして2人がウエイトを離した時です。 今回ジョーは、バーを差し上げた状態で止めたのです。 
その瞬間です。

 「ョエェェェェェええーっ!!!」 

ジョーの悲鳴が一瞬時間を凍らせます。 「その悲鳴は、コンコルドのジェットエンジン音より大きかったのではないか?」や、 「隣国のカナダでもジョーの悲鳴が聞こえた」と後に噂された程です。 
もちろん見事ジョーも大胸筋断裂!

 =予防策=
確かに上で述べられたトレーニング法は、筋力をアップするとし定評ですが、もっと気を付けた補助が必要。 又ウエイトを重くするにしても、最大重量より僅かに重く(10kg程度)する程度なのです。 そして忘れてならないのが、トレーニングするには充分休養をとり、筋肉疲労が完全にとれていなくてはなりません。

 <最後に>

トレーニング中の怪我は頻繁に起こります。 その殆どが不注意やオーバーワークが原因です。 高重量で激しくトレーニングすればする程、休養する時間も長くなります。 その事に注意し、十分ウォームアップとストレッチを忘れなければ、この様な怪我を起さずに済むのです。 

 

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